調律するってどういうこと?
2003年2月19日日本ピアノ調律師協会研修「インハーモニシティを考えた調律実技」
講師 辻 文明さん からまとめと雑感

調律師にとってメインな仕事”調律”にどうアプローチするか?

今回の研修では辻文明さんのキャリアとお人柄からにじみ出る素晴らしい言葉の数々を与えていただきました。その中から、いろんなかたへ知識をもっていただきたいので公開させていただきます。この場をおかりして感謝します。

調律師は、何気に調律をしているのでなくそのピアノが良く響くように、音を創っていくのが仕事なんだと改めて確認できるお話でした。

●調律というのは言うまでもなく弦の張力を加減して音をあわせるということですが・・・・このときあわせるという言葉のように文字通りあわせてしまった音というのは美しいのでしょうか?
  
その答えの前に調律の手順を書いておきます。

1、基準音・・・調律師は何にも手がかりなしに音を創り始めるのではありません。
基準音とはピッチという言葉でよく耳にされるかしれません。A=440HZといったものです。1秒間に空気を振動させる回数、いわゆる振動数(周波数とも呼ばれます)が440回ということでHZという単位で表されますこの基準音音は、ユーザーの希望に応じることのできるものです、またオーケストラによって指定ピッチが違う事もよくあります。
 このときAというのは、どの場所をさすのでしょうか?
わたしたちは49Aと表現します。ピアノの鍵盤番号とAつまりラの音です。ピアノでは一番低い音が1Aで一番高い音が88Cと言うわけです。(88鍵の場合)
 
 何故、ピッチはいろいろ違うの?

ピッチが違うと、音の響きが違うからというのがその理由で、オーケストラでは、オーボエがピッチを決めます。ピッチを変えるということはピアノにとって物理的にピアノ弦の張力を加減することなので、弦のテンションが変わるとサウンドも変わる。という訳です。

2、割り振り・・・割り振りとは何?今回はごく一般的な平均率という音階の考え方で書きます。
1オクターブの12個の半音を均等に割る。というのが平均率の考えで、ひとつの半音は1オクターブの12乗根という訳です。計算で出された美しい音ということがいえます。逆にいえば半音の距離が場所によって違うというのが平均率ではない、調律法といえばいいでしょうか。

調律師は、ピッチを取った後基準になるAの音から中央の1オクターブを順番に(人それぞれのやり方がある。)12個の音を創るのですが、4度や5度の和音を鳴らし、その和音の間に響くウナリと呼ばれる、2つの音の振動のなかから聞くべき音を聞いて、計算上の決まった速さに振動数をあわせて弦を止める。具体的にはチューニングピンにチューニングハンマーという道具を差し、テコの応用で弦の張力を上げたり下げたりして適正なところに持っていきます。

 和音の聞くべきウナリって何?

そもそも、2つの音がまったく一致していたら、2本の弦がまったく同じ振動数で鳴っていたら、ウナリはでません。でも、割り振りで使う音程は、違った2つの音程ですから間違いなくウナリ(振動数差)は生まれます。そして弦の音って1本の弦でもいろんな高さの音が同時になっているんです。知ってた?それは、倍音と呼ばれるもので弦の中で一番強く響いている音を基音とすると、振動数が2倍のおと3倍のおと4倍の音・・・という具合に延々と音は重なっている。でも、聞こえる音は限られているけれど。倍音を使って調律をしています。

2つの音(和音)の一致する倍音を探し、平均率で指定されたところまで連れて行く。これが、割り振り調律。
 では、一致する倍音とは? 
 <ユニゾン(同音)のとき一致する倍音の比率は1:1。2つの音のうち片一方が440HZであればもう一方も440HZである。という関係。同じ音なんだもんね。

 <オクターブのとき一致する倍音の比率は1:2。下の音が220HZなら上の音は×2で440HZになるとき完全に協和音程。(ピアノの場合はビミョーに違うのだけどその説明は後ほど)

この上記2つの音程は、平均率であろうがそうでなかろうが、変わりない。
ここからが平均率で使うやり方。

 <5度音程(例えばC−Gなど)の一致する倍音は2:3、下の音の3倍音と上の音の2倍音が一致すると協和音程となりウナリが無くなる。が、平均率のばあいは、すこし音程が狭くするため(計算値に持っていく)ウナリを作る.

 <4度音程(例えばG−Cなど)の一致する倍音は3:4、下の音の4倍音と上の音の3倍音が一致すると協和音程となりウナリが無くなるが、平均率のばあい、すこし音程が広くするためウナリを作る。

この4度と5度を使って割り振るのだが、ただしい場所に音を持っていくためにその他の音程を使って検査をして
より、正確な平均率に仕上げていく。すこしは、ふんいきがわかりました?よく、調律のとき和音ばっかりででいろんな音だして調律してるのを聞いたこと無いですか?あれが、割り振りです。

3、オクターブ調律・・・これは、割り振りで作った中央のオクターブを基準にして低い音、高い音の方へオクターブの音程を使って音を広げていく調律です。440HZの1オクターブ上の音を創ろうと調律をすると、880HZの音ができると単純に考えるかもしれませんが、それは計算上のことで、実際のピアノというのは弦を張って音を出している構造上、また弦の音を増幅するために響板に接点を持たせているため、振動に節ができて、上の方へのオクターブは、実際より高い振動数となってしまいます。下へは、低めになります。しかも、最低あたりの音はその音の基準となる音よりも重なってなっている高い倍音の方がよく響いています。

4、ユニゾン調律・・・同じ音同志をあわせる調律です。ピアノの弦は中音〜高音部で3本、低音部で2〜1本の弦が通常はってあります。(イレギュラーなものもあります。低音の初めのほうは3本というやつもあります。)それらが同じ音でないと美しい響きは望めません。・・・でもホンキートンクピアノっていうのもありますね。わざとずらして
あるやつ。そもそも、調律が十分なされてない酒場のピアノでブルースマンが弾いてた音を作り出すっていう・・・

では、ここが結果が1つの音ではない分野でしょうか。辻さんによれば個性の発揮できる部分ということで、何気ないようでとても奥深い。それが、ユニゾンの世界です。弦というのはしょせん鋼鉄線を張ったものですから一本
一本でも癖のあるものです。それを、どう響かすかが腕の見せ所ということです。

 ♪美しいピアノの音とは

●良く伸びる音
●鳴らしはじめてどんどんふくらみの広がる音

ユニゾンを癖のある弦をあわせるためにわざと、ウナリをぶつけてあわせた音をつくってしまうときがあるのですが、あわせた音というのは、美しいのか?といえば、そうではないということが、美しい音と聞き比べると分かります。音を合わせすぎて、伸びない音を創ってしまうと、音がいきいきしてない・・・てな感じになります。
ピアノの音は、鍵盤をたたく→ハンマーが弦をたたく→強い発音→音が徐々に減衰→音が消える。
という一連の発音の流れがありますが、美しい音は音が徐々に減衰の部分に違いがあります。
 良く伸びる、美しい音は、いったん音が減衰しはじめてから、また立ち上がってふくらみをもち→徐々にゆるく
カーブを描き音が消えていく。
のです。そういう音を、探し創る・・・これが調律師の仕事。

音への探求心。ピアノの調律師はそれをわすれてはいけないですね。自戒を込めて精進します。

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